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 私が観察している田上地区のイノシシはテリトリーの中を移動するときは、たいてい同じような道を通っている。ここでいう道とは、彼らが頻繁に行き来することによって出来た獣道(けものみち)である。かつてけものみちとは、決して人間が立ち入ることの出来ない、動物(獣)たちだけが通るようなイメージがあった。けものみちという言葉の持つ語感がそういうイメージを抱かせる原因だったのかも知れない。
 ところが1978年に宮崎学氏が発表した写真によってそれまでのイメージが覆させられ、野生動物たちも人間の作った道を結構利用しているということが明らかになった。
 田上地区のイノシシたちも同様であって、人工的な道がある場所ではそれをよく利用している。しかし、人の全く入らない場所では彼らのみが行き来する純然たるけものみちが形造られている。このような道が作られる理由は、人間の場合と同じく合理性によるものだろうと思う。生い茂った木々などは、休息時には自分たちの姿を隠してくれる反面、移動時には少なからず彼らにとって行動を妨げる障害物にもなるわけである。あまり手入れのされていないヒノキや杉などの人工林の内部は薄暗く彼らにとってもあまり住みやすい環境ではない。しかし差し込む光が少ないため内部はツル性植物などが少なくスムーズな移動が出来る。
 田上地区のヒノキ林などにイノシシの通り道が多く目に付くのはこうした理由があるのかも知れない。

20070728___20081007