2005年2月21日 その日は午前中から小雪のちらつく日だった。
 私の撮影のフィールドとしている里山(徳島県美馬市脇町田上地区)
でいつものように野性イノシシの撮影をするためにカメラを担いで東田上(黒北)の山道を歩いていた。この辺りは日頃からイノシシの足跡や糞などのフィールドサインが多く見られる場所である。
 双眼鏡で何気なく遠くの木々を見ていた時、スダチの木の枝に絡みつく黒っぽい小動物らしきモノが突然、視野に入ってきた。そのときは一瞬、リスかモモンガの類かと思った。ザックから望遠レンズを取り出してとりあえず何カットか押さえた。こういう場面では下手に動かずとりあえず押さえに撮っておくのが鉄則である。相手はまだこちらに気付いていない。カメラをかまえてカットを押さえながら少しずつ距離を詰めていく。「ダルマサンが転んだ」ゲームの始まりである。そうしているうちに僅か数メートルの距離まで近づいていた。もうこちらの存在に気付いているはずなのだが全く無視したままで、しきりに黄色く色づいたスダチの実に手を伸ばしている。
 長年、山仕事をしている人が「ハクビシンは意外に人怖じしない」と言っていたのを聞いたことがあるが、それにしてもこれほどだとは思わなかった。ハクビシンが皆そうなのか、あるいは個体差によるものかは解らないが、とうとう手が届くほど近くまで接近出来たのだ。
時々、こちらを見ては再びソッポを向いて何事も無かったかのようにスダチの実を食べ続けるのだった。その後も木を降りて地面を歩いては別の木に移動したりと自由に行動していた。こちらも望遠レンズを標準ズームに換えて撮影させてもらった。約30分、ひととおり撮り終えて帰路についた。 
 後日、何度かあのスダチ畑に行ってはみたが、あの日 以来一度も出会えていない。

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里山 フォトレポート シリーズ No,1 

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悲しきハクビシン